― 「あの」ルパンの話・・・

サメダ ルパン全般について、お話してまいりましょう。
池本 新ルパンのテレコム作画回を見ていると実に面白いんだけど冷静に考えると話の内容はとりたてて面白いというほどのものではないような物が割にあって、画面の面白さで保っている場合がありまして。他にも新ルパン初期の友永さん(※49)作画回などに、画面は素晴らしいんだけど話がどうという事も無いから埋没しちゃってる回なんてのが結構あったりして。作画する側が脚本を選ぶといったような事は出来ないものでしょうか。
大塚 残念ながら選べないのです。「今度のはひどい話だなぁ」といいながら、修正する時間はありません。それでも見栄がありますから作画だけでもよくしておこう、が率直な現場の反応です。
池本 テレコム作画回のルパンはテレコムルパンと言っていいほどに「いわゆる新ルパン」とかけ離れていますが(笑)それどころか新ルパンをよく見ると数種類の画風が混在していて、PARTIIIなんかはよく各回の作画のバラつきが指摘されますが実際は旧ルパンも新ルパンもバラバラで。TVシリーズのアニメというと作画監督によるキャラ修正というのがよく言われますが『ルパン』においてキャラ修正はそれほどには行なわれてなかったと睨んでるんですが実際のところはどうだったのでしょう?
大塚 旧ルパンでは幾つかのエピソードで私が作監キャラ修正をしてないものと、リキをいれて直してるものが混在しています。はじめから各話とも3〜4プロダクションにばら撒かれて、あがってきていましたので、一種の重点主義をとり、出来の悪いエピソードは作監キャラ修正放棄でのりきったのですが、パートIIでは北原(※50)児玉(※51)の二人作監体制にし、テレコムに関してはノーチェックということにしていました。当時は一話/7、000枚ぐらいセルを使用していますので、大半は直しきれません。ここでもある程度重点主義をとっていました。近頃では一話あたりの使用枚数が平均して3、000枚程度まで減り、局も視聴者も「顔」だけに厳しくなっていますから、作画監督の仕事も顔の修正だけにかかりっきりになってます。
サメダ 先ほども話題に上がりましたキャラクターの「顔」というのは、ものの第一印象として大切な一部分ですけど、それでもし「動き」がギクシャクしてしまったら、アニメーションとしても見る側としても結局はどちらも損をしているのかもしれませんね。

その点『風魔』での動きの素晴らしさは目を見張るものがありました。

池本 それに『風魔』において為された快挙として声優刷新…の理由は色々であったにせよ…と作画陣主導の製作スタイルというのが挙げられると思うんですが、ただ、作画陣主導が『風魔』の長所でもあり短所でもあったんじゃないかと。画面から発想される面白さがてんこもりで実に楽しいし気持ちいいんですが、この上で全体をまとめる作家がいたらもうひとつ高みに行けたんじゃなかろうか、と。長編である『マモー編』や『カリ城』と中編の『風魔』を較べるのもあれですが、前者は吉川さん(※52)、宮崎さんといった強烈な作家が中心にいたからこそという側面があるのに対して『風魔』はその部分でどうしても弱いんじゃないかと思うんです。東映動画からテレコムから色んな現場で仕事をなさってきた事を踏まえて、大塚さんにとって理想的な現場のスタイルとはどういった形になるんでしょうか?
大塚 『風魔』の作画陣主導は意図的なものではありませんでした。演出が早い時期にお手上げになってコンテを放棄、仕方なく原画が分担してコンテを完成させましたが、丁度その頃アメリカとの合作『リトル・ニモ』(※53)のために私だけでなく友永、富沢(※54)も数度にわたって留守をするなどのアクシデントがあって、まだ若い原画にかなり大幅に作品に参加するチャンスが生まれたなどの事情がありました。作画水準は『カリオストロ』『チエ』(※55)のあとだけにそこそこの水準に達していますが、作家的なリーダーがいなかったことの弱点が悔いを残しています。理想的な創作体制はもちろん、優れたリーダー(演出家)の存在は不可欠です。全体の水準が高ければ高いほどそれを使いこなす演出家がいないと、いい映画は出来ないことをこの映画は物語っています。 
池本 当時の若手の方々が大幅に作品に参加するチャンスが生まれたという事がかえって上手く作用したような気がします。カーチェイスや殺陣など活気に溢れていて、現場の人間が作品をどんどん面白くしようとした成果がはっきり画面に現れているわけで。アニメは映像作品なわけだから作画陣主導で画面から発想するというスタイルは本道のように思います。
大塚 テレコムでも、もうあれは出来ないと思います。その後『ノストラダムス』(※56)というのをやっていますが、実写の大監督が乗り込んで来てシナリオをチェックしただけで、一切の変更を許さず、何もしないで去ってゆきました。あの仕事によるテレコムへのダメージはすごく大きかったですね。その後テレコムはテレスペ・ルパン(※57)への参加は一切拒否しています。中堅スタッフにもこれから才能を発揮できるキャリアを積んだ人達が出て来て面白い動きを期待してたんですが、状況はすっかり変わってしまって、テレビでは一話/3、000枚しか使えない時代になってしまって、おまけにつまらないシナリオが「降りて」くるといった状況ですから、しばらくは辛いでしょうね。
池本 大作感を出すためなのかどうか知りませんが、監督の名前だけ引っ張ってくるという悪癖はかなり昔からあるようですね。『ノストラダムス』に関してはテレコムならではの手堅さこそ感じましたが作品として何か言う気にはならない出来でした。有能スタッフが上手く機能しなかった好例だろうと思います。

風魔における声優刷新は結果論として実に正しい選択だったなぁというのがあって事実僕はあのキャストも好きなんですけども、ただ、欲を言えばあそこでもそれまでのキャストに準じてるというかキャラ解釈自体への変更が無く、イメージ的に似たような路線での変更に過ぎなかったわけで、どうせなら全く新しい解釈でキャスティングしてもよかったんじゃないかと思うのですが、その辺は如何でしょうか。

大塚 声優のキャステイングは作画陣と別の部門で行われ、事後報告になるのが普通で、あの場合、ムービーの新任の企画担当K氏が新しい試みとして声優総入れ替えをしたとも、山田さん(※58)にお願いにいって山田さんの態度があまりにも悪かったので考え直した、とも言われています。私の見るところ予算ではなかったのでは…ないでしょうか。レギュラーはあの頃から非常に高かったはずです。
サメダ 風魔のお話が出たところで、こんなお葉書も届いていますのでご紹介します。
風魔冒頭シーン。銭形は「実家」に戻ったという設定なんですけど、家業を継いだ…というか、あれは兄さんの奥さんとその子供で、甥っ子達…という裏設定だと聞いた事があります。誤解してる人が多いので「風魔」の設定資料「銭形一家」の秘密をここで改めて暴露してください!

関東在住 ラジオネーム・Haniwaさん

私も「へぇ」と思ってしまったんですが、いかがなんでしょうか?

大塚 あそこは厳密に考えないで下さい。どうしてもルパンを逮捕できない銭形が引退
して故郷に帰り家業を継いでいた…は随分前からあったアイディアです。
サメダ 銭形警部とお寺というのは、『マモー』からして裏設定が繋がっているような感じもしますね。

ではまた引き続きお話を続けて参りましょう。

池本 アニメの魅力の要素として「動き」というのが当然ありますけど、その内実として現実の再現、再構築というのがあって。例えばカーチェイスの何が面白いと言って結局は、確実に現実を再現した上で描き手の視線が存在する事…つまりは誰がどう見てどう描いたか、になる訳ですが。そこで突っ込んで考えてみると、何故それが面白いのか?というところに行き着くんですけども、その辺りはどのようにお考えでしょうか。
大塚 難しい質問ですが、僕自身の考えかたでは「自分が面白いと感じる」こと、としか言いようがありませんね。やはりどこかで非常識でないと、常識の範囲からは生まれない発想であるべきで、いろいろな現象を見てもそのまま素直に見ないで、一旦視点を変えて見る習慣を持ってないと、面白いものは出てこないと信じていますが。
池本 「動き」の内実としてもう一つ「時間」という物があって、「十三代五ヱ門登場」冒頭で五ヱ門が飛んできた斧を斬った瞬間に、画面が微妙にスローになる件りですとか、「タイムマシンに気をつけろ!」冒頭、車を運転していたルパンが魔毛狂介に対峙する件りの畳み込むようなカット割りとか…あそこで何が面白いかと言うと時間が支配、操作されている点にあると思うんですが、その辺は如何でしょう?
大塚 タイミングは100%実写映画から輸入したものでしょう。時間差、スローモーション、コマ落としなどありとあらゆるテクニックはすべて映画をみての刺激からです。アニメーションではそれが省セルのテクニックの一方便として使われることが多いようです。ただし、それらの乱用はいい感じはしないものです。
   
サメダ では、次に2003年ルパンファンが乱舞したというこの話題。
初の漫画作品になる
『ある雨の日の午後』(※59)についてお聞きしてまいりましょう。
池本 ルパン漫画『ある雨の日の午後』で最高齢漫画家デビューをなさった大塚さんですが、文法の違いなどからアニメで出来て漫画では出来なかったこと、あるいはその逆というとどういったものがあったでしょうか。また、30年前に旧ルパンを手掛けていた頃に出来なくて今回出来たこと、あるいはその逆というと?「ルパン」に対する気持ちの変化などもありましたら。
大塚 デビューなんていわないで下さい。30年ですよ!今さらという気分ですが、いわば好奇心で手を出してみました。歳のせいもあって僕の中のルパンはドンパチと縁のないものになっていたと思います。あとは御覧の通りで遊ばせてもらいました。
サメダ
ネタを考えるのに三ヶ月かかったそうだとか…。漫画を描かれた時、一人でネタを思いついて笑っていたと伺いましたが、どのシーンを思いついて笑ったのでしょう。

関東在住 ラジオネーム・Haniwaさん

とのタレコミ(?)葉書もいただきましたが?

大塚 あるアニメ監督を登場させてやろう、峠茶(※60)の常連をからかってやろう、と思い付いた時です。全裸にしてやろうと思い付いた時も寝ていてクスクス笑ったものです。歳甲斐もなく悪戯心で申し訳ありません。
サメダ 歳甲斐もなくなんてそんな!(笑)逆に「大塚さんらしいな〜」と思われた方も多かったのでは・・・それになにより、本当に常連さんも「やられた!(笑)」と思われたことと思います。
まさか全裸にされるとは…。大塚さんの遊び心と言うか悪戯心には感服ですm(__)m

もう一枚、大塚漫画に関してお葉書いただいてます。

初の漫画『ある雨の日の午後』と今後の可能性について完成後に、大塚さんは、皆の期待したルパンではないとご自身でかなりご謙遜されていましたが、正直なところガッカリした人はあまりいないのではないかと個人的には思っています。
TVシリーズでも劇場版でも、ルパンには必ず事件があり敵が存在していました。これは各話の中で必ず起承転結が求められているからであり、ルパンという作品の性格上必ず何らかの事件を盛り込まなければならないという宿命みたいなものがあって仕方ないものとは思います。もちろん、大塚さんの漫画にも起承転結は盛り込まれていますが、大きな深刻な事件ではなく、むしろルパン達の日常を描いたものとして過去のルパンにはない斬新さがありました。
はっきり言ってしまえば、新生大塚ルパンに拍手喝采した人の方が多いでしょう。後編の完結後に、峠茶屋のBBSで「カーチェイスのあるドタバタ」もやってみたいと仰っていたのを皆見逃してはいないと思いますが、ズバリ!またお話があった時は描いていただけるんでしょうか。。

関東在住 ラジオネーム・CRI-Gさん

カーチェイス!私も興味あります。

大塚 今でも風変わりな舞台で面白いカーチェイスをやってみたい、という気持ちはあります。よほど飛躍した発想がないと、カーチェイスは極論すると何をやってもアメリカ風になってしまうことから逃れられません。そうでなくてどんな面白さ、新しさが出せるのか。それさえ見つければ明日にでも手が動くと思います。
池本 アメリカ風以外の道の一つとして「風魔」で描かれたカーチェイスは実に面白く新しかったです。ルパンと銭形再会の件りや温泉街でのドタバタも理屈抜きに面白いですが、やはり白眉は商店街のそれで。日常から一挙に非日常へとなだれ込む描写が物凄くエキサイティングでした。堅実な作画の技術や巧みな演出に裏打ちされた現実感が突飛な飛躍を納得させる上手い隠し味になっているなぁと感じました。
大塚 自動車は今やテレビや携帯電話と同じぐらい当たり前の存在になっています。便利このうえないのですが、何故か胸ときめくものではなくなってます。故障ばかりするボロ車の頃が懐かしいのは何故でしょう。
サメダ どれでも皆同じというモノではない、個性がそこに感じられるせいかもしれませんね。手を焼くものほど愛着も湧き、単なる物体ではなくなるものですし(^^)私はルパンにも個性のない先端機器をスマートに使いこなしているより、多少ボロでアナログなものでもそれを駆使して知恵で対抗している姿がとても好きですが、そこにも通じるものが少なからずないだろうかと感じています。

さて長時間お送りしてきた特別インタビューもそろそろお別れの時間が近づいてまいりました。名残惜しいですねぇ。
こうしてネットのおかげで今回こういう素晴らしい機会にめぐり合えたのですが、大塚さんとネットでのファンとの交流の仕方はとても刺激的で双方向の楽しい形態が作られていると思います。大塚さんの漫画に常連さんが登場したり、直接討論したり…。今後ネットでやりたいことはありませんか?

大塚 今後ネットでやりたいこと…今のところ予定はありませんがパノラマ堂さん(※61)とよく相談して決めます。ルパンはやや飽きた気分がありますので何か別のものを考えたいと思っています。
サメダ 何がまた大塚さんから発信されるのか、期待してお待ちしております(^^)
最後に大塚さんから一言いただきたいと思うのですが、宜しいですか?
大塚 はい、今回は「お絵描き大会」(※62)の返礼をかねてサメダさん、池本さんの参加されてるファンサイト『闘祭』での質問に応えましたが、みなさんのインタビューは雑誌取材なんかよりも鋭く、的確な設問で、感心しました。有り難うございました。
池本 貴重なお話を色々伺えて大変有意義でした。ありがとうございました。
サメダ お忙しい中、こうして長時間お付き合いいただき本当に感謝しております。
ありがとうございました!

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この文章は2003年11月末〜12月末にかけて行ったメールでのインタビューをラジオ形式に再編集したものです。
企画立案:池本剛 / 協力:はにわ クリスタルマン
肖像画・GIFアニメ制作:クリスタルマン / デザイン構成:サメダ

この企画に快くご協力いただいた大塚康生氏にこの場をお借りして厚く御礼を申し上げます。

これら文章の無断転載・商用への利用はご遠慮下さい。
Lupin the third FANART festival 2004

注釈用画像引用出典/
「作画汗まみれ」徳間書店アニメージュ文庫
「TVアニメ25年史」徳間書店
「双葉社MOOK・レジャー&ホビーシリーズ 新・ルパン三世」
「双葉社MOOK・アニメコレクション ルパン三世[ルパンvs複製人間]」
「双葉社MOOK・アニメコレクション ルパン三世 カリオストロの城」
「ルパン三世研究報告書」双葉社
「双葉社MOOK・アニメコレクション ルパン三世 PART・3」
「100てんランド・アニメコレクション ルパン三世」双葉社
「中公コミック・スーリ アニメ版 ルパン三世」中央公論社
「愛蔵版 ルパン三世」中央公論社
「別冊宝島 このアニメがすごい!」宝島社
「おもひでぽろぽろ」パンフレット
「ルパン三世 くたばれ!ノストラダムス」パンフレット
「漫画アクション増刊 ルパン三世 公式OFFICIAL magazine」双葉社

 

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