Game over!!




多数の敵を前に、次元はかなり疲弊していた。
いや、彼が本当に疲れを感じているかは定かではない。
しかし、少なくとも見た目にはそう思えた。
なにしろ最初と比べると、動きが格段に鈍くなってきている。
「くそっ」
次元は手の中の得物を握り直した。全てはコレにかかっている。


その時である。
「お〜い、次元。昼メシどっする〜?」
どこかから聞き覚えのある声が響いてきた。およそ緊張感の感じられない声音だ。
無論、次元は無視する。
今はそれどころではないのだ。
いかに敵を撃とうとも、すぐに応援が駆け付け通路をふさぐ。
しかも、対するこちらの武器はマグナムである。撃ち尽くす度に一旦退いて弾を補充せねばならず、遅々として前に進むことが出来ない。
幸いにも持ち弾の数が尽きることはなかったが、今のこの状況の前では、そんなことは何の慰めにもならなかった。
次元は舌打ちした。
これは、敵数の予想を誤った自分のミスだ。
「こんなことなら、マシンガンにでもしておくんだったぜ」
しかし、今更できぬ相談である。


「おい、次元ってばよ」
また邪魔が入る。全く鬱陶しいことこの上ない。
「とうとう冷蔵庫が空っぽになっちまってな。今、豆腐とベーコンとパンの切れ端しかねェんだ。早いモン勝ちだぜぇ〜?」
最近“仕事”で忙しかったから、蓄えがないのも無理はない。
「拙者は豆腐をもらう」
「じゃあ、オレは……」
こうなると、もう無視は出来ない。正面の敵から視線は外さずに、次元は叫んだ。
「オレはベーコンだっ」
「あいよ。後で買い出し頼むな」
再び静寂が戻った。


タイムリミットが迫ってきている。
あと30秒で、この建物に仕掛けられた爆弾が爆発する。
それまでに、敵を蹴散らし脱出しなければならない。
──時間がない。
次元は、額から汗が吹き出るのを感じた。
間に合わないかもしれない。
無情にも、時間は刻々と過ぎていく。
最後のあがきなのか、敵もしぶとく食らいついてくる。

──時間が……

 『……10……9……8……』

──時間が、ない。

 『……5……4……』

──どうする!?

 『……2……1……』

──いや、もうどうしようもない。これは、己の読みが甘かったせいなのだから。

 『ゼロ』



その瞬間、全てが終わった。












次元は、半ば呆然と目の前の光景を見詰めていた。

何故こんなことになってしまったのだろう。

オレが……このオレが弱かったとでも言うのか!?












ふと傍らに気配を感じ、次元は顔を上げた。
ルパンが笑みを浮かべて立っていた。まるで、最初から全てを見通していたとでも言うように。
「仕方ねぇさ。それが、この世界の掟だ」
台詞の内容とは裏腹に、声音は至極能天気に聞こえる。
次元はようやく強張っていた肩の力を抜いた。
それと同時に、手中から滑り落ちるものがあった。
「や〜っぱ、オレ様って天才♪ 次元にも突破できないなんてよォ〜」
にんまりと笑うルパンに、次元は先程まで握り締めていたものを投げつけた。
「オレの腕が悪いんじゃない! この『次元』が弱過ぎるんだ! だいたい何だ、さっき『ルパン』でプレイしたらやたらと強かったぞ。不公平じゃねぇか、自分ばかり強く設定しやがって」
「製作者は神サマです、ってな」
「拙者はどうなのだ」
部屋の隅で豆腐を食べていたらしい男が口を挟む。
「『五右ェ門』か? 接近戦は最強だぜ。先手必勝で、どんな敵も真っ二つ!! でも今ンとこ、撃たれたら終わりだな。弾丸を斬るプログラムがど〜も上手くいかなくてサ」
「偏りまくりじゃねーか、このゲーム」
「しょ〜がねぇだろ、まだ試作段階なんだから。ま、単なるお遊びヨ」
次元が投げつけたもの──ゲーム機のコントローラーを弄びながら、ルパンが言った。
「ちなみに、各ステージをクリアしてボーナスポイントが貯まると『不二子』ちゃんが出て来て、あ〜んなコトやこ〜んなコトをしてくれちゃったりして〜。ヌフフフフ……♪」
「破廉恥な」
「全くだ」
次元は溜め息を吐くと、ソファーにもたれ掛かった。
制限時間内に全ての敵を倒し、敵地を脱出するという単純なゲーム。ルパンの頭脳を持ってすれば、恐らくもっと高度なゲームが作れただろうに。つまりこれは、彼の言う暇つぶしの“お遊び”に過ぎないのだ。
そして、自分はそれに付き合ってやっただけ。
所詮、ゲームはゲーム。いかにリアリティがあろうとも、現実とは違う。

──でもまぁ、それなりに楽しめたがな。

次元は苦笑すると、一つ大きく伸びをした。
正面のテレビ画面では、いつまでも『GAME OVER !!』の文字が派手に点滅していた。




END



タイトルがタイトルなので、途中でオチが読めてしまうかもしれませんが ……まぁ、いっかvv(笑)


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