Check Mate




         act1.Fujiko-1

 イギリスの片田舎にある大豪邸。イギリスでも有数の大富豪である貴族、サンジェームス伯爵邸である。
 その伯爵令嬢、エリザベス・サンジェームスは、家庭教師とフランス語の授業中だった。
「ねえ、不二子。今度はドイツの会社の社長のダイヤが盗まれたんですってね。」
 不二子はため息をつく。また、“アイツ”の話か。
「フランス語とは関係ありませんわ。」
「ホームズがいたらなあ…。知ってる?アルセーヌ・ルパンとホームズは対決をした事があるのよ!でも、ヨーロッパに来てるのよね!私が絶対捕まえてやる!」
“アイツ”が好きだと言うならまだ話は分かる。彼女は、探偵志望であり、シャーロック・ホームズの大ファンなのだ。
 いくらこの子がターゲットと言っても、忍び込む所間違えたかも…。
彼女はそんな事を考えながら彼女に勉強を促した。
 エリザベスは目の先に輝くエッグを見つめた。そして大切そうに手に取る。
「このエッグがもっと高価だったら、ルパンがここに来るかもしれないのになあ…。」
夢物語といった顔をして、エリザベスは笑った。

 “エリザベス・エッグ”。伯爵が15歳のプレゼントに彼女にプレゼントしたのは、2万ポンド(1ポンド175円として、約350万)のエッグだった。どういう訳かロンドンの外れの骨董品屋に置いてあり、その店に似合わぬ程の美しさを放っていた。しかもまるでエリザベスの為にあるように、「エリザベス」という刻印があった。加えて名前も15歳の娘へのプレゼントに相応しいとして、伯爵が購入したものであるが、実はそのエッグは2万どころか時価2000万ポンド(約35億)してもおかしくない、エリザベス一世が幼い頃愛用したとの噂もあるエッグだった。
 もちろんそれは裏での噂に過ぎなかった。しかも何故寂れた骨董品屋に存在していたのかも分からない。何より、昔から、そんな物あるのかどうかも分からない、お伽話の様な存在のお宝だった。
 骨董品屋が、娘を見なければ売る事はできないといったらしいので、骨董品屋が女王の家臣の子孫であった可能性もある。エッグを盗んだ泥棒の子孫ではそんな事は言わないだろう。
 エリザベスの今年の誕生パーティでこのエッグが出てきた時、裏社会の人間達の中でとんでもない騒ぎとなった。2ヶ月経った今ですら諸説飛んでいる。また、そのエッグを知る貴族、学者などの間でも噂になっているようである。
(でも、当の持ち主はこんな調子ですものねえ。)
予告状が届いていないところをみると、ルパンはまだ準備中の様である。ルパンがこの手のお宝を狙わない訳がない。
(先手必勝よ、ルパン。)
 不二子は今回とても綿密な計画をたてていた。それ程までに、このエッグは不二子にとって魅力的だった。.忍び込む前は魅力は高いにしろ、あくまでいつもの仕事という気分であったが実際にお宝を観て、その完璧な輝きにとてつもなく魅かれてしまったのだ。
 ところが、それから2週間しても、ルパンがあらわれる様子はなかった。
 表向きは2万ポンドであるが、本当の価値をしらぬルパンでもあるまい。予告無しで突然現れるつもりか。
 でも、いつ………?

 そして、ついにルパンからの予告状が届いた。不二子は伯爵とエリザベスにエッグを偽物とすり替えておくように問いた。エリザベスはやる気満々だった。
 伯爵はそんな娘を尻目に、不二子に言った。
「心配ない。私の友人で有名な刑事がいてね。彼を呼ぼうと思っている。」
 そして、勿論、呼ばれもしない刑事も到着した。
「お任せ下さい!私がかならずルパンを仕留めてみせます!」
 サンジェームスは苦笑いをしながら、
「ありがとう、Mr.銭形。しかし、刑事をもう1人呼んでいるんですよ。」
「ん?」
銭形が振り向くと、そこには金髪の若い青年が立っていた。
「ロンドン警視庁の、ジム・クリスフォードです。」
銭形は彼を睨む。そしてじろじろと顔を見つめた。
「何ですか?」
「いや、失礼。ルパンが警察関係者に変装するのはよくある事でしてな。ふーむ………。」
彼をじろじろと観察するように睨む銭形に、伯爵はせき払いをする。
「Mr.銭形、ジムは私の大事な友人ですし、これまでに優秀な実績をいくつも残しているエリート警視ですよ。」
 銭形は不快そうに黙る。そして、その目がエリザベスの隣の女性に移り、目の色を変える。
「不、不二子!」
「お久し振りですわ、銭形警部。」
「Mr.銭形、知り合いかね?」
「知り合いも何も、こいつはルパンの仲間ですぞ!」
「何をおっしゃっているの?伯爵、私、昔ルパンに大切なダイヤを盗まれましたの。」
「本当かね?」
「すごーい!不二子!」
 驚く伯爵と喜ぶエリザベス。
「その時に、お世話になったのが銭形さんですが、この方は会った方会った方、ルパンの仲間だのルパン本人だのと疑いますの。この方が捜査の役に立つとは思えませんわ。」
 この数分で既に、明らかに伯爵は機嫌を悪くしていた。
「Mr.銭形、これ以上私の友人の名誉を傷つける様であれば ICPOに連絡して帰って頂きます。又、ここにいるからには御自分の立場をわきまえて頂きたいですな。」
「はい…。」
 伯爵に気のない返事を返した後、銭形は黙って、不二子をにらんだ。不二子は勝ち誇った顔で銭形に微笑んだ。

 銭形がいら立ちながら中庭に出ると、不二子がおいかける。銭形は振り返って、また不二子を睨む。
「ここにルパンが来る以上追い出される訳にいかんからな。お前の事は目をつぶってやろう。だが、あのエッグに手をつけた時点で逮捕だ。」
「やあねえ。さっきのお詫びにせっかくルパンを逮捕できるようにアドバイスしに来たのに。」
「何?」
不二子はニヤッとして言った。
「あいつ、怪しいと思わない?」
「…誰の事だ?」
「ジムに決まってるじゃない。例え本当にジム・クリスフォードという人間がいたとしても、今ここにいるのが本当に彼だって保証はないし、あなたの行動を抑える人材としても、ここに潜り込む人材としても、彼程都合のいい人物はいないわ。」
「ふん、それぐらいわしだって考えられるわ。しかし彼をさっき調べた限りではおかしい点はない。これからロンドン警視庁に行ってくる。」
「本当にジムがここにくる予定はあったんじゃない?」
「ふん、そうじゃない。彼自身の事をよく知っている人間を連れてくるだけだ。彼を見分けられるような恋人などがいたら都合いいんだがな。」
「………そう上手くいくかしらね。」
「ふん!お前こそ、首を洗って待っているんだな。」
不二子は、黙って銭形が屋敷を去っていくのを見守った。
 ルパン、ゲーム開始よ!



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